レポート
潤沢な資金があるほどスピーディに事業展開ができますが、当初から準備するのは困難を極めます。革新的な技術や創造的なアイデアで前進する女性起業家たちは、どのような資金計画を立て、どのように資金を調達していったのか。日本ベンチャー学会事務局長の田村真理子氏がファシリテートを務め、3人の経営者とともにディスカッションしていきます。
1997年に有限会社を設立、「のりかえ便利マップ」が営団地下鉄などで採用され、2001年に株式会社を設立する際に資金調達をしたという、(株)ナビット代表取締役の福井泰代氏。現在は、全国の地域特派員によるデータ収集や、検索サービス「助成金なう」などの事業を展開しています。「ベンチャーキャピタルを含めた8社ぐらいから2億円ほど調達して、会社をスタートしました」と、当時を振り返りました。
「その後も紆余曲折があり、今回のコロナ禍で銀行から緊急融資を受けたりもしていますし、東京都のいろいろな助成金も利用しています」
女性向けのライフアンドキャリアスクールを展開するSHE(株)の代表取締役CEO/CCOである福田恵里氏は、「ちょうど今、次のシリーズに向けて資金調達をしているところです」と語ります。
「今4年目のスタートアップで、これまで2回の資金調達をしています。1回目はエンジェル投資家の方々数名から、2回目はベンチャーキャピタルやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)などからで、累計2億円ぐらいです。初めからIPOを目指して起業したということもあり、資本政策をかなり描いて進めてきたところもあるので、結構計画通りに進んでいるかなとは思っています」
(株)シナモン代表取締役社長CEOの平野未来氏は、大学時代に設立した会社を売却、その後に立ち上げた現在の会社では、企業向けに成長戦略としてのAIサービスを提供しています。
「学生時代からもう15年近く経営をしているので、ある程度の人脈があり、多分10回ぐらいは資金調達していると思います。特に人工知能ビジネスに転換してからは、エンジェル投資家の方から合計1億円ちょっとを調達していますね。当時は金融業界をターゲットにしていたので、なるべくそういった業界の方にアプローチしていました。今の会社にしてからは、累計30億円くらいを調達しています」
田村氏が「30億というと、今度は事業展開というものが経営者だけの視点ではなくなりますね」と問いかけると、平野氏は事業を大きく転換したときの例を語ります。
「そうですね。まったく違うビジネスに転換したので、当時の投資家の方からは買い取らせていただいたりはしています」
すると福田氏も「弊社も、株主の方から買い取ったこともありました。本当に資本政策は後戻りができないということを感じています」とうなずきます。B to CからB to Bへの事業転換を行った福井氏は、「やっぱりお客様も変わりますし、協力会社も変わるので、株を買い取ってまた展開していったりとか、いろいろありますね」と、ステークホルダーとの関わり方を振り返りました。
そして話題は、時代の中での資金調達における変化へと展開。「起業家で成功した方がエンジェル投資家になられるというパターンが多く、そういった方々にご支援いただいた」という、2017年創業の福田氏の話を受けて、田村氏は「福井さんが起業した2001年と違うのはここ。起業家が、スタートアップに出資をするという仕組みが、今は割と整っている」といいます。平野氏も「全然違いますね。15年前は投資家がほとんどいなかった。今はエコシステムがすごく回るようになってきたので、日本のスタートアップ業界にとって素晴らしいこと」と共感します。
さらに、「何を訴えて調達に結び付けたか」など具体的な手法や、シナジー投資となる事業会社からの資金投資で注意すること、助成金やクラウドファンディングの活用、信用保証会社の融資支援制度や日本政策金融公庫の新創業融資について、それぞれのメリット、デメリットがパネルを使ってわかりやすく解説されました。
「最後にひとこと、いいですか」と平野氏。「資金調達は本当に大変。断られるとへこむわけですけど、あまり気にせず、投資家からフィードバックをもらえて良かったと受け止めればいいかなと思います」と参加者へ前向きな言葉が贈られました。「夢を持ち続けることが、結局は出資者を説得させて資金を調達できる」と締めくくった田村氏。時代も業種も異なる三人三様の経験と最新の資金調達のノウハウがシェアされた、貴重なセッションとなりました。
㈱日本経済新聞社、㈱日経BP社を経て、現在、日本ベンチャー学会事務局長。早稲田大学アントレプレヌール研究会理事、早稲田大学女子大生起業家交流会代表。
経済産業省、文部科学省等政府委員等。主にベンチャー企業や起業家に関する調査・取材を手掛けながら、起業家教育や事業創造論、事業計画、キャリアクリエイト等を早稲田大学、上智大学、事業創造大学院大学等で担当している。
シリアル・アントレプレナー。東京大学大学院修了。レコメンデーションエンジン、複雑ネットワーク、クラスタリング等の研究に従事。
2005年、2006年にはIPA未踏ソフトウェア創造事業に2度採択された。在学中にネイキッドテクノロジーを創業。IOS/ANDROID/ガラケーでアプリを開発できるミドルウェアを開発・運営。2011年に同社をミクシィに売却。ST.GALLEN SYMPOSIUM LEADERS OF TOMORROW、FORBES JAPAN「起業家ランキング2020」BEST10、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2019 イノベーティブ起業家賞、VEUVE CLICQUOT BUSINESS WOMAN AWARD 2019 NEW GENERATION AWARDなど、国内外の様々な賞を受賞。
また、AWS SUMMIT 2019 基調講演、ミルケン・インスティテュートジャパン・シンポジウム、第45回日本・ASEAN経営者会議、ブルームバーグTHE YEAR AHEAD サミット2019などへ登壇。2020年より内閣官房IT戦略室本部員および内閣府税制調査会特別委員に就任。
プライベートでは2児の母。
出身地:神奈川県 54歳
1965年生まれ。88年成城大学経済学部を卒業後、キヤノン販売入社。91年、結婚・出産を機に退社。
97年、有限会社アイデアママ設立。98年、「のりかえ便利マップ」が営団地下鉄、都営地下鉄、ぴあなどに採用される。
2001年、株式会社ナビット設立。全国の鉄道研究会とSOHOスタッフ58,100人体制で、交通と地域に関わる定期的なデータ収集、調査、コンテンツ制作、企画、システム開発を行う。主なサービスとして、全国約680万件の情報を収録する法人電話帳、助成金・補助金の検索サービス「助成金なう」、チラシ特定情報検索「毎日特売」サービス、在宅ワーカー支援サイト「Sohos-Style」、その他各種コンテンツサービスや、交通機関のデータベースを大手プロバイダーへ提供している。国土交通省の交通政策審議会専門委員を在任中。
2児の母。
1990年生まれ。
大阪大学在学中、サンフランシスコ・韓国に留学。帰国後、Webデザイナーとして制作会社でインターンをする傍ら初心者の女性限定のWebデザインスクール「Design Girls」を立ち上げる。
2015年リクルートホールディングスに新卒入社。ゼクシィやリクナビのアプリのUXデザインを担当。2017年4月SHE株式会社を設立。創業以来CCOとしてクリエイティブとプロダクト全般をディレクション。2020年4月、代表に就任。
開催日時 | 2020年11月16日(月)13:30-18:30 |
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会場 | オンライン開催 |
参加対象 | 企業・団体の代表者、経営者層、個人事業主など(男女不問) |