セミナー
日時 | 2024年2月29日(木)16:00〜18:00 |
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講師 | 株式会社Mahalo 代表取締役 松井 裕香 |
進行 | 一般社団法人WE association 理事 株式会社A&CO 代表取締役社長 三竹 麻子 |
「TOKYO女性経営者塾 by N E W」テーマ型セミナー、2023年度のラストを飾るテーマは「女性従業員100名を率いるサロン経営者の事業拡大の秘訣とは」です。ヘア・アイ・ネイルなどのサロンサービスの運営やオリジナルプロダクトの販売などを行う、株式会社Mahaloの代表取締役 松井 裕香さんに、女性従業員のマネジメントのコツや事業拡大の秘訣などについてお話しいただきました。
自身もスタイリストであり、プレイヤーとして精力的に働いていたという松井さん。社内で指名トップまで登りつめたあと、2009年におひとりで「シャンプー台ひとつ、座席数2つの本当に小さいサロン」をオープンしたのが株式会社Mahaloの始まりだったと語ります。
「とにかくひとりになりたくて始めたのですが、どんどんつまらなくなってしまって。でも人も雇えず1年半くらい迷走したあと、昔一緒に働いていたメンバーがお店を手伝ってくれるようになったんです。そのときに、この人を精神的にも経済的にももっと自立させて人生を豊かにしてあげたい、と思うようになって。それでメンバーが3人になったタイミングで駅の近くに移転したのが、今の本店のレガロ(REGALO RESORT)です」
そこから10年以上経ち、全国で20店舗、社員数150名という企業に成長。サロン事業以外に、プロダクト事業にも力を入れているといいます。
「プロダクト事業は、もともとスタッフのエンゲージメントを高めようとして始めたんです。美容師が考案したヘアケアアイテム『ymme(ワイミー)』、私自身女性特有のゆらぎが気になることから、女性のアンバランスな毎日をサポートするセルフケア事業『mycy(マイシー)』を開発しました」
そして2022年には、Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2022企業総合部門※第1位、企業部門別ランキング 経営トップ実行力ランキング※第1位をW受賞するに至ります。(※従業員規模:101名以上1,000名以下の部)
「私たちのパーパスは、『女性の人生を輝かせ 明るい未来を創る』ということ。すべての女性が輝くため、トキメキとイロドリを提供し続けるためには、まず自分自身が輝くことが大切。ライフステージに合わせた働き方ができるシステムが、会社の成長を見据えた女性の活躍推進と評価され受賞に至りました」
従業員150名全員が女性という株式会社Mahalo。平均年齢は26歳と、若いパワーに満ち溢れています。
「採用の面では新卒に重きを置いています。中途はそもそも母数が少ないですし、入ってくるのを待っていたら事業成長は遅くなります。なので、教育体制を整えて新卒の方たちに会社の理念をしっかり伝えて育てるやり方をしています。幹部もすべて生え抜きと決めています」
女性たちが女性のためにつくりあげたサロンは、店舗ごとにコンセプトも異なるのだとか。
「やはり美容業界ということで、ターゲティングもどちらかというとトレンドが強め。そのときのトレンドを取り入れて店舗をつくるため、店舗ごとにコンセプトも異なります。トレンドが古くなってしまう部分もあるので、そこのギリギリを攻めています」
さまざまな年齢層・ジャンルの女性から支持されている、株式会社Mahaloのサロン。しかしここまでの道のりは決して平坦ではなかったようで、話題は苦労や挫折、そして巻き返しのストーリーへと進みます。
起業した際、経営には向いていないと思っていたという松井さん。
「レガロ(REGALO RESORT)本店を出したあとも、経営者に向いていないとずっと思っていました。マネジメントもできないし、数字も苦手だし、直感で本能的に動いていくので戦略もわからない。ただ、指名でリピートしていただければなんとかなる事業形態だったので、私が稼ぎ頭のプレイヤーでいないと回らないような経営でずっとやっていました」
当時はさらにマネジメントの難しさにも悩まれたそうです。
「新たに男性2名と女性1名を入れたんです。でも、彼らは辞めていきました。理由というのは、私が男性のマネジメントがうまくできなくて育ててあげられず、全員のフラストレーションが溜まって……という感じです。そこでまた女性が入ってというのを何年も繰り返していましたね」
進行の三竹さんからマネジメントで一番苦労したことを聞かれると、「本当に1年ぐらい立ち直れなかった」という出来事を話してくださいました。
「まだ社員数が30人くらいのころ、信頼しているトップのメンバーと食事に行ったんです。そこで彼女らと『こういうお店にしていきたい』『こんなふうにやっていきたい』という思いを分かち合いました。でも結果として彼女たちは辞めてしまって。ずっと一緒に働いてきた店長クラスの社員たちだったので、心がすごく折れてしまいました」
その出来事をきっかけに、経営者としての自分を見つめ直したという松井さん。
「彼女たちは、自分はずっとプレイヤーとしてやっていたのに、店長という立場になったことで苦しくなってしまったんだと思います。女性あるあるかもしれませんね。これを機に経営者としての自分を見つめ直し、会社の体制もすべて変えて、今までの1on1の仕組みも一新しました。立て直すまでの2年くらいは地獄のようでしたね」
その地獄のような状況の原因は、自分のあり方にあったと松井さんは続けます。
「結局、原因はすべて自分にあったと思います。『どうせ人は辞めてしまう』という投げやりな考え方になっていました。とにかくそういう自分のスタンスを変えないと立っていられなくなってしまったので、入り口からすべて私が見て、教育もきちんとやっていく必要があると思いました。そうしてしっかり向き合うようになってから、1年ほどかけて少しずつ改善していきました」
負のスパイラルに陥っていた自分自身のスタンスを変え、今一度マネジメントと向き合い直した松井さん。Forbesの受賞まで会社を引き上げることに成功した裏側には、苦悩と挫折、そして改善に向けた長期間の努力があったことがわかります。
セミナーは、参加者からの質問も交えインタラクティブに進みます。松井さんのInstagramで研修風景を見たという参加者の発言から、話題はMahalo流の研修へ。
「研修にはすごく力を入れていて、4カ月に1度職種ごとに行っています。Mahaloが大切にしている考え方や、Mahaloらしい接客のロールプレイングなども取り入れています。一方で、リーダー研修に関しては、いわゆる『やり方』は一切教えていません。これは私の考えですが、リーダーは自己開示がとても大切。だからしっかり自分の話をさせるコンテンツをつくってコミュニケーション能力を発掘し、何のために自身がリーダーシップを発揮する必要があるのかという目的をつくってあげるような研修内容にしています。そうじゃないと、多くの女性は『私は何のために店長をやっているんだろう』『何のためにリーダーをやっているのかわからない』と気持ちが落ちてしまう。そうすると離職につながってしまうので、リーダーという立場にやりがいを持たせるような研修を自ら設計しました」
いわゆる"女性脳"を踏まえたうえで、女性のマネジメントを行う松井さん。
「私がよく社員に話すのは、『仕事において、女性は感情を消化していかないと前に進めない』ということ。感情や葛藤をしっかりと消化していかないと、仕事で成果を出すことができないと教育しています。なので、そこのマインドセットをリーダーたちが発信することを徹底しています。いつも同じ店長だと話せないことでも、まったく違う支店のマネージャーになら言えることってありますよね。女性のマネジメントですごく大事なのは、横のつながりだと思うんです。特に若い時は。だからそれを仕組み化して、分かち合う時間を定期的に店舗ミーティングなどに入れています」
「例えばリーダーだと、よく出てくるのが『お店のスタッフとコミュニケーションがとれない』『こんなに頑張っているのにうまくできない』とか。一番よくあるパターンは、離職が出てしまった店舗の子。悩みや葛藤を拾い上げてどんどん消化させていくことによって、明日から頑張ります、という状態を生み出していく」
これには、コーチングを扱う三竹さんも「すごく正しいやり方。ご自身でこれを考えて実践されている行動力がすごい」と絶賛。
このほかにも、Mahalo流の採用のコツや参謀のつくりかた、さらには長く愛されるお店づくりの秘訣など、さまざまなメソッドを惜しげもなくお話しいただきました。
ご自身の長所を「ポジティブ」とする松井さんの輝くような明るさもあり、終始和気あいあいとした雰囲気のセミナーになりました。
セミナーの最後は、毎回恒例となったネットワーキングタイム。参加者のみなさんの自己紹介や質疑応答の続きはもちろん、2023年度ラストのテーマ型セミナーということもあり、三竹さんから全5回のまとめの言葉もありました。
そのなかで、三竹さんは松井さんのことを「もともと人と向き合うことがお好きな人だと感じました。自分の好きなことを貫き、挫折することがあってもきちんと内省して力にして、今こうやって発信されている。それが松井さんの魅力につながって、人が集まってきている」と分析。続けて、「離職率云々で管理職がうまく機能しないなどの悩みを抱える経営者の方も多いです。でも、そこの問題点はひとつだけ。『人に興味がない』んです。経営者としてやっていくうえで、自分のことだけでなく、自分がどれだけ人(社員)に対して好奇心を持って踏み込んでいくかといったところが勝負になってくると思います」と、参加者のみなさんにエールを送りました。
それに対して松井さんも強く頷き、「それって愛ですよね。男性はロマンで女性は愛。愛を具体的に言うなら、三竹さんがおっしゃった『相手に対しての強い関心』のことだと思うんです。それを持っているリーダーは絶対成功する」と力を込めました。
「ヒト・モノ・カネ」で最初にくるのが人。マネジメント、ひいては経営者に欠かせないことは、人に対する興味関心、そして愛ということを胸に刻んだ2時間となりました。
大手サロンでの経歴を積み、2009年には株式会社Mahaloを設立。ヘアサロンからネイル、アイラッシュ、エステ、プロダクトなど多岐にわたる事業展開し、平均年齢26歳の女性たちが輝く場を提供している。
「女性の人生を輝かせ明るい未来を創る」理念を掲げ、女性視点のマネジメント・ビジネスで人間力を高める社内研修や仕組みづくり、働きやすさの向上に尽力。2022年には「Forbes JAPAN WOMAN AWARD」企業総合部門/経営トップ実行力ランキングで第1位をダブル受賞。
セミナーや講演で、働く女性たちに積極的に発信。一児の母として仕事と子育ての両立を模索・実践し、自身の経験を通じて学んだ未来の描き方を社員たちに共有している。
KDDI、マイクロソフト、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て独立、株式会社A&COを創業。
社会人大学院の女性キャリア支援からスタートし、キャリアコーチサービス「Good Coach」を運営。企業の女性管理職育成や男性管理職のマインドセットにコーチングで成果をあげてきた。
2023年業界専門紙数社と一般社団法人WE associationを設立、DE&Iに関する企業支援の幅を広げている。