2024.03.22
「女性管理職のパイプライン構築とDE&Iの推進を目的とした日本初の社外メンターマッチング」を軸に、メンターマッチングとメンター育成をしている株式会社Mentor For。ロールモデルを社外から見つける時代として、様々な企業人事と手を組み、活躍の場を広げています。そんな代表取締役を務める池原真佐子さんに、ビジネスの原点とこれまでの歩み、今後の展望を語っていただきました。
東京女性経営者アワードを受賞した反響は、想像以上に大きかったです。お客様も注目してくれていて、「取引先が東京都の賞を受賞したんだ」と周りに言ってくださっていると聞きました。この賞を頂いたことで、弊社に対する安心感にも繋がったのだろうと思います。
私自身は、自分が行ってきたことが一つの形として評価を頂いたということで、自分のモチベーションにもなっています。またステークホルダーの多い仕事のため、周りのお仕事の方、関係者の方にも受賞を喜んでいただけたということが、一番嬉しく思いました。
元々私は2014年に起業をしています。ただその時は、自分が何をやりたいというような明確な目標があったわけではありません。ただ、何か社会に大きなインパクトを出したいという気持ちで、自分にできること、「can」で起業しただけです。
その時も一生懸命仕事はしていたのですが、自分自身に明確な目標がないためどこか迷いがありました。そんな中、2015年に医師から病気の手前だと言われたのです。当時はすでに結婚をしていたのですが、子どもはいません。今子どもを授からないと、今後は難しいかもしれないと言われ、夫婦で話し合いをしました。
当時周りには、女性で子どもを持っている起業家がほとんどおらず、子どもを授かったらどうなるのかがわかりませんでした。もしかしたら、お客様からの信頼を失うんじゃないか、小さい会社だからすぐに潰れてしまうのではないか、など様々な不安はありましたが、医師の後押しもあって、子どもを授かるという決断を夫としたのです。その結果、子どもを授かることができました。幸い、私の病気は悪化することなく治ったので、今は全く問題ありません。
子どもを授かり臨月になった頃、夫に海外駐在の辞令が出ました。夫婦で話し合い「自分のキャリアも大事にした方がいい。離れていても協力し合おう」という結論になり、夫だけが海外に行き、私は日本で子どもを産んで育てることになりました。一人で子育てをしながら働いていましたが、働きにくさはそこまで感じませんでした。様々な方が協力してくれましたし、東京都の補助も手厚いというのもありました。ただその一方で、働きがいには課題を感じていました。「どうしてそこまでして仕事するの」「子どもや夫が可哀想」という風に言われたことも。
私たち家族で話し合い、納得して決めたことです。しかし女性が働きがいを追求したり、家庭も仕事も両方がんばろうとする時には、「母なのに」という見えない壁が沢山あると感じました。
それでも私は自分が働くことを決断しました。どうしてそう決断できたのかを振り返ってみると、それこそロールモデル的なメンターがいたからです。
私は起業をする前に、海外の大学院に通っていました。修士を取るコースだったのですが、そのクラスは半分が女性です。私が最も若く、全員が企業や組織のトップリーダー。日本人は2人しかいませんでしたが、女性だからとか、子どもがいるからとか、そういったことに全く縛られておらず、みんなが自分の能力を発揮してリーダーとして活躍していました。
そういう世界を間近で見ていたので、私もできるはずだと思い、決断できたところがあります。こういった原体験が何よりも大事だと、改めて思いました。
今、日本の企業では女性の管理職育成が求められています。ですがまだまだ、上を見ても斜め上を見ても、そのポストには男性しかいませんし、その男性の配偶者の多くが、おそらく家事育児の多くを担っている状態です。同性のロールモデルが不在の中で、見たことがない存在になれと言われても難しいのではないでしょうか。
人生には色々な選択があっていいと思うのですが、多様なロールモデルがいないと、目指す選択肢が限定されてしまいます。であれば、このような人たちを繋ぐサービスを作ろうというのが、今のビジネスの原型になりました。この事業の種を子どもが1歳ぐらいの時から育て始めました。子どもが2歳半になった時に、夫が今度はドイツに転勤となり、私と子どももドイツで生活をすることにして、月1、2回のペースで日本に出張、それ以外はドイツで、メールでのやり取りを中心に仕事を進めていました。
2021年にコロナが流行り始め、家族そろって日本に帰国し、そこからはアクセル全開でこの事業に取り組んでいます。
私たちが使っている「メンター」という言葉は、今でこそ普及していますが、当時はまだ普及しておらず、言葉の説明から始めるという日々。しかしそんな時、たまたま経済系の新聞で「社外メンター」、「女性活躍」を切り口として記事にしていただけました。そこが広がりのきっかけだったように思います。
個人向けにメンターを紹介するという切り口もありますが、それだと「点」への支援になってしまうと考えました。社会を変えていくためには、まず企業から変えていこう、ということで、企業向けのサービスに舵を切ります。
案件ごとに期間や内容は変わります。例えば「課長職についている人たち20名に半年間メンターをお願いします」というような形です。その期間でプログラムを組み、実施しています。またメンティー(メンタリングを受けた人たち)に追跡調査をしたことがあるのですが、そこでわかったのは7割以上の人に、昇進・昇格などのポジティブなキャリア変化があり、サービスの質を確信しています。
今までリーダーをしたいと考えていなかった人も、実際にリーダーをしている人から話を聞いて考えが変わり、リーダーを志望された方や、昇進試験に合格したという方もいらっしゃいました。
またある調査では、メンタリングを受けた方たちの心境の変化を測定した時に、次世代への貢献意欲が増すこともわかっています。メンタリングを受け、次は自分がメンターになって後輩を指導するということが、自然と起こっているという報告も受けており、とても嬉しく思っています。
多くの女性が「キャリアアップに自信が無いと言う理由」は何だと思いますか?
たくさんの要因があると思います。これは研究でも言われていることですが、日本に限らず先進国の女性は、キャリア志向の人が約2割、家庭の方が大事だという人も約2割います。しかし残りの6割は「その人たちがいる組織に影響される」と言われています。「うちの会社の女性は上昇志向が無い」と言う方は、組織の風土を見直すとよいかもしれません。
また、社会全体の無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)にも原因があると思いました。例えば男は稼ぐべき、大黒柱であるべき、長時間働くべきという考え方。そして女性は、サブであるべき、控えめであるべきという考え方。そういったものが教育から染みついているのではないかと思いました。
その感覚を取り払うためにもメンターは必要ですし、メンタリングを受けることで、本人の選択肢が増え、それが社会を動かすことにも繋がっていると私は思っています。
女性を切り口に事業をしていますが、それはゴールの一つでしかありません。人口の半分が女性なのに、その女性ですら活用されていない風土は、女性以外の人にとっても活躍しづらいのでは無いかと思います。
また弊社の事業には女性の活躍という側面だけでなく、ミドルシニアの副業や活躍という側面もあります。弊社の公式メンターの中には、海外・地方にいる方や、管理職・役員経験者も多数いらっしゃいます。男性でも定年した方や、企業でリーダーを務めながら副業でメンターとして活動している方もいます。自分の人生の経験が、価値になり、次世代の人たちのエンパワーになるという仕組みは、素晴らしいものだと考えています。
改めて、そういう意味でも、人の能力を最大限に発揮できる仕組みづくりになっていると思っています。
最後に、私はどれだけ社会に良い影響を与えられるかということを、自分の今の仕事や立場、役目を通じて最大化していきたいと思っています。どれだけ社会を良くしたのかというところを追求していきたいです。
早稲田大学、早稲田大学院(教育学研究科/成人教育専攻)卒業後、NPO等でのインターンを経て、PR会社、NPO、コンサルティング会社で勤務。
在職中にINSEAD(Executive Master in Consulting and Coaching for Change:現EMC)にて修士号を取得。
株式会社MANABICIA(2021年に、株式会社Mentor Forに社名変更) 創業。臨月でパートナーが海外転勤となり、 ワンオペ育児で仕事と育児を両立。この出来事が契機となり、2018年に企業ではたらく女性リーダー・候補に社外メンターをマッチングする事業とメンターを育成するスクールの2つを立ち上げる。
その後欧州に移住、日本と往復しながら事業継続。現在は日本で事業を拡大中。
D&I、女性活躍、メンター・スポンサー育成等の講演実績、及び受賞歴多数。
2023年にINSEADでAdvancing Diversity and Inclusion コースも修了、D&Iの知見を深める。ベンチャー稲門会幹事。