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セミナー

TOKYO女性経営者塾 by N E W
第4回 女性視点による誰もが生きやすい社会へ

日時 2024年11月15日(金)10:30〜12:30
講師 株式会社タスカジ 代表取締役
和田 幸子
進行 一般社団法人WE association 理事
株式会社A&CO 代表取締役社長
三竹 麻子

自身の悩みを解決する事業で市場の価値観変革を

「TOKYO女性経営者塾 by N E W」セミナー、2024年度4回目のテーマは「女性視点による誰もが生きやすい社会へ」です。掃除はもちろん、料理や整理収納など、経験豊富なハウスキーパーと家事を依頼したい人をマッチングするプラットフォーム「タスカジ」を運営する株式会社タスカジの代表取締役 和田 幸子さんに、女性視点で自身の悩みを解決する事業の強みや、競争優位に立つコツなどをお話しいただきました。

自分自身の挫折経験から「世界中の家事をゼロに」と一念発起

システムエンジニアとして13年間会社員を続けていたという和田さん。新規事業の立ち上げにも携わり、会社の派遣留学制度を利用して慶應義塾大学大学院 経営管理研究科へ留学。経営の知識や戦略的な物の見方を学んでMBAを取得したそうです。

それからほどなく出産し、育児休暇を経て復帰。思いきり働いてキャリアを築いていくと意気込んでいたものの、早くも家事育児とキャリアの両立の難しさにつまずいてしまったといいます。

「夫も協力的で、家事育児は半々で分担していました。それでもキャリアとの両立はとても難しく、毎日の家事は消化不良になり綿埃だらけの家で生活していました。ワンオペになりキャリアアップを諦めた友人もいます。当時の内閣府のアンケートを見てみると、『仕事で活躍できていますか』という問いに対して、子どもがいる女性の約72%が『できていない』と答えている。逆に子どもがいる男性の約80%は『活躍できている』と答えている。やはり家事育児の負担が大きいと、仕事で活躍できないという気持ちが生まれるんだと実感しました」

当時、家事代行は仕事と家事育児を両立するための切り札になるといわれていました。しかし、利用率はたったの3%。価格が高いのがネックだったようです。

「日常生活で使える金額の家事代行サービスをつくりたい。世界中の家事をゼロにして、誰もが自分の人生を輝かせることを諦めない世界をつくりたい。その思いでタスカジを立ち上げました。自分のためにつくったサービスでもあるので、私は現在もヘビーユーザーの一人です。起業して事業を運営するにあたり、自分自身がヘビーユーザーであるということは競争優位の源泉の一つ。市場の解像度も上がるし、消費者がなにを期待しているのか、どんなところが使いにくいと思っているかなど、アンケート調査をしなくともわかるようになります。人生をかけてもいいと思えるほど重大なテーマを見つけ、それを事業に絡めることができると、強い推進力を持って成功へ導けると思っています。市場を深く理解できるという強みにも変わりますからね」

2014年にサービスを開始し、今年で10年目。タスカジの利用者は約13万人、ハウスキーパーは約4,000人という規模に拡大しています。「家事のプロといえばタスカジ」というイメージも定着していますが、競合に負けない強みはどこにあるのでしょうか。

持続可能でお金をかけずに事業を回す! さまざまな工夫が強み

タスカジは、スキルのシェアリングエコノミー。家事を依頼したい人と、家事の仕事を受けたい人が取り引きするインターネット上のプラットフォームです。システムエンジニアとして活躍した和田さんならではのサービスです。

「個人と個人が取り引きするので、間に業者が入らない分リーズナブル。安いと1時間1,500円から利用できることもあります。ただ、サービスの性質上インターネット上で知り合った個人同士が密室で2人きりになってしまうという面も。そこで損害賠償保険やハウスキーパーの面接やテスト、さらにすべての取り引きにルール違反などがないかどうかをチェックするなど、安全性にはすごく力を入れています。ハウスキーパーのプロフィールやレビューも見られるので、自分や家族に合った人を選べるというのもポイント。家事代行というと掃除のイメージが強いですが、掃除だけでなく料理や作り置き、整理収納なども扱っており、業務の範囲が広いことも特長です」

家事代行サービス事業においてもっとも大切なポイントは、ハウスキーパーの品質であると語る和田さん。約4,000人のハウスキーパーが登録しているタスカジでは、サービスの品質をどのように保っているのでしょうか。

「タスカジでは、実はハウスキーパーの品質をコントロールするのにほぼお金をかけていないんです。家事代行業者の多くは、研修プログラムや研修施設をつくるなど、とてもお金をかけている。でも私たちはスタートアップで投資する資金もないので、できるだけお金をかけずにやれる方法を模索しました。そこでできあがった仕組みが、ハウスキーパーたちがお互いに教え合ったりスキルアップをしたりするためのコミュニティです。他人同士がいきなり集まっても価値観のぶつかり合いなどが起きてしまうため、私たちがコミュニティのルールをきっちり定めて、あとの運営はハウスキーパーにお任せしています。あまりお金をかけなくてもこのコミュニティが機能しているため、結果的にハウスキーパーの品質を高く保てているというところが強みの一つです」

ローンチ当初から、さまざまなメディアに取り上げられているタスカジ。その広報モデルも強みであると和田さんは語ります。

「お金をかけて広告を出すというものではなく、メディアにタスカジの理念を取り上げてもらって、それを通じて世の中に認知してもらうというやり方です。広告だとどうしても企業自身が『これいいですよ』と言っているものになりますが、第三者であるメディアが紹介してくれると、とても説得力があるんですよね。私たちは『こんなにすごい家政婦さんがいるんですよ』とメディアに売り込み、取り上げていただく。するとタスカジには家事のプロフェッショナルがたくさん集まっていると認知され、たとえば梅雨時期の洗濯物の干し方などを情報番組で紹介する際に監修というかたちでお声がけいただけるようになる。そして集まった家事知見を書籍というかたちで世に出し、家事の専門家という権威性を獲得することができる。今となっては、企業から『家事のプロのお墨付きがほしい』『一緒に商品開発をしたい』というお声がけを多くいただけるようになり、『タスカジ研究所』というBtoB事業の立ち上げも行いました」

本来、認知獲得にはお金がかかるため、売上のほとんどをマーケティングに投資していくケースが多いもの。しかし、和田さんたちは早い段階から「認知が大切」「家事の知見は世間に需要がある」ということを把握して動いてきたため、“家事といえばタスカジ”というブランディングに成功したといいます。

和田さん自身がヘビーユーザーである点や、低コストで高品質を保つ仕組みの工夫、持続可能な広報モデルの確立が、事業の成功に大きく寄与していることがわかりました。

ひとりで創業するメリット・デメリット

講義のあとは、トークショーと質疑応答へ。初めの一歩で悩んでいる女性経営者が多いということもあり、司会の三竹さんから、創業して事業が回りだすまでの経緯についての質問がありました。

「私はひとりで立ち上げました。なぜかというと、ビジネススクールの同級生で集まって事業を立ち上げる話が出た際、いろいろあって挫折した経験がありまして。次に起業するときは、絶対に自分が一生をかけてでも成し遂げたい、失敗しても悔いが残らないくらい強い想いで臨めるテーマにしようと思っていて、10年くらいテーマを探していたんです。誰かと一緒に創業すると、その人の意見も入ってきますよね。自分自身の想いを突き通せないリスクがあると思ったので、ひとりで創業しました」

自分の想いを貫けるというところは大きなメリット。逆にデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

「起業後に資金調達をしようと思ったときに、やっぱり共同創業メンバーがいなかったり経営チームになっていなかったりということで、資金調達がしづらいというデメリットもあります」

メリットとデメリットを踏まえ、さらには自分の個性やスキルも鑑みて、ひとりで立ち上げるのかチームで立ち上げるのかを考えるのがベストという和田さん。

会場からは、いつから強みの創出や仕組み化の形成を考察していたのかという質問が挙がりました。

「ビジネススクール時代に事業戦略を学んでいたこともあり、起業の初期の段階からずっと考えていました。ビジネスモデルも施策も、とにかくすべてのことに対して『今やろうとしていることは他社でもすぐにできることか』を必ず考え、なにを競争優位の源泉にできるかを考え続けることが正しいかなと思います。これはもう脳の意思決定の筋トレ。ずっと続けているといつの間にか考えられるようになりますよ」

仕組み化については、システムエンジニアのキャリアが活きていると語る和田さん。

自身のスキルや得意なことを事業にうまく活かすことも、成功のポイントの一つといえそうです。

お金だけではない! 時間をかけることも投資の一つ

着実に認知を獲得し成功しているタスカジですが、実は和田さん自身の給料が0円という状況が創業から3年ほど続いていたそうです。

「こんなに利益も出ていないのによく続けたなと自分でも思いますが、それはひとえにビジネス知識が薄かったからということと、とにかく世の中を変えなきゃという熱い思いがあったから。いつか利益が出るはずと信じてやってきて、6年くらい経ってやっと利益が出たと思います。資金調達は4,000万円ほどを1回しています。お金をかけて投資をするというスタンスではなく、時流を読んでアイデアを出して、今これしかリソースがないなかで一番効果があるのはどれだろうと選んでやってきています。じっくり情報収集をしたり、ディスカッションを重ねて世間のニーズを引き出したりするといった、”時間”を投入するのも投資。自分たちがやって時間がかかることは、競合がやっても時間がかかる。それなら時間を投資してうまく成功パターンを見つけられれば強みになる可能性がありますからね」

自分が人生をかけてでも成し遂げたいテーマを見つけ、それに向かって戦略を立てて他社にはない強みを創出し、できるだけお金をかけずに回る仕組みを考えること。想いを貫きながら工夫を重ねて地道に進み続けた結果、家事のプロとしての確固たる地位を築いたことが伝わってくるセミナーでした。

和田 幸子
株式会社タスカジ 代表取締役

横浜国立大学経営学部卒業後、富士通に入社しシステムエンジニア、新規事業開発などを担当。フルタイムワーキングマザーとしての課題認識に基づき、2013年に起業。家事代行マッチングサービス『タスカジ』を運営。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。現在は、地方自治体や企業などとの新しい取り組みや、教育機関をはじめとした講演活動など、活動の幅を広げ、「家の中から世界を変える」をミッションに掲げ日々奮闘中。
日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2018「働き方改革サポート賞」受賞。一般社団法人シェアリングエコノミー協会理事、東京都「東京の中小企業振興を考える有識者会議」委員。

三竹 麻子
一般社団法人WE association 理事​
株式会社A&CO代表取締役社長

KDDI、マイクロソフト、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て独立、株式会社A&COを創業。
社会人大学院の女性キャリア支援からスタートし、キャリアコーチサービス「Good Coach」を運営。企業の女性管理職育成や男性管理職のマインドセットにコーチングで成果をあげてきた。
2023年業界専門紙数社と一般社団法人WE associationを設立、DE&Iに関する企業支援の幅を広げている。

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