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セミナー

TOKYO女性経営者塾 by N E W
第2回 新規事業を手掛けてきた経営者が語る。事業拡大のための戦略と実践

日時 2024年9月9日(月)15:00〜17:00
講師 株式会社アドタグ 代表取締役
淺場 理早子
進行 一般社団法人WE association 理事
株式会社A&CO 代表取締役社長
三竹 麻子

アドタグの提唱する「TPS」で洗練された事業戦略を

「TOKYO女性経営者塾 by N E W」テーマ型セミナー、2024年度2回目のテーマは「新規事業を手掛けてきた経営者が語る。事業拡大のための戦略と実践」です。理論と実践のバランスを重視した事業推進サポートを行う、株式会社アドタグの代表取締役 淺場 理早子さんに、事業戦略のポイントや実践方法についてご自身の事例を交えてお話しいただきました。

事業戦略を検討するうえで外せない「TPS」とは?

新卒で小さな会社に入り、新規事業の営業からスタートしたという淺場さん。その後、横浜ゴムグループで新規事業の立ち上げや、株式会社ミクシィ(現MIXI)でIPOを経験し、2009年にパーティードレスのシェアリング事業を行う株式会社C’zを、2017年に新規事業支援・BPO会社として株式会社アドタグを設立されています。

「近年では、新規事業の立案の仕方などを学生さんに教えたり、情報経営イノベーション専門職大学にて非常勤講師を務めたり、動画学習サイトUdemyにて新規事業立ち上げに関する講座をリリースしたりもしています。そのほか、越境型ミニトレーニングやミニMBAなどのイベントも行っています」

自身の会社経営のほか、講師やイベントなども精力的にこなす淺場さん。講義は、事業構築のための戦略・考え方についてから始まります。
「事業戦略検討の流れとしては、まず事業アイデアを考え、その事業を深堀りするところから始まります。その事業は本当にニーズがあるのかどうか、検証を重ねる。そして市場や競合を分析し、どうやったら売れるのかを考え、マーケティングやオペレーションを検討し、数字に落とし込んでシミュレーションする。ここまできたら、事業計画書としてまとめられます」

全体像を押さえたところで、これだけは外せないという3つのポイントを挙げていただきました。

「2017年からアドタグが提唱しているのが、TPSという理論です。これは、事業アイデアの深堀りに使用するフレームワークで、ターゲット(T)・ペイン(悩み/課題)(P)・ソリューション(S)の3つの仮説を検討し、本当に仮説通りか検証を重ねるというもの。検証を続けて、これだったらお客さんが来てくれそうだと思ったら、初めて市場に投入するという考え方です」

淺場さんは、事業戦略を考えるうえでTPSがマストだと語ります。具体的に何がT、P、Sになりうるか、大手のオンライン書店を例にすると以下のようになります。

・ターゲット(T):書籍を買いたい研究職のビジネスパーソン。
・ペイン(P):近くの書店に行っても在庫がない。あっても重くてまとめ買いしづらい。
・ソリューション(S):いつでもオンラインで注文でき、翌日には宅配で届く。
この例を踏まえ、参加者の皆さんはご自身の事業におけるTPSをその場で書くことに。

「TPSの3つを言語化してまとめるのは、簡単そうに思えて実はとても難しいことがわかったと思います。私が衣装レンタルの会社を起業したときを例に挙げると、ターゲット(T)は銀座にやってくる30~40代の女性ですが、それだと対象が広すぎるので深堀りが必要です。具体的にどんな人をターゲットにして、どんなドレスを用意するといいのか、そのパターンをたくさん考えました。例えば、『結婚式に招かれていて、新婦の先輩として挨拶をする』という方がターゲット(T)の場合、ペイン(P)は『ジャケットなどできちんと感があり、挨拶時に胸元が見えないデザインで、膝が隠れるドレスを着ないといけない』など。そうすると、ソリューション(S)として用意するべき商品がある程度限定され、それを仕入れるためにはそれなりの価格がかかることが見えてきます。なので、そのパターンでやった場合、ニーズはあるのか、仕入れ値と売上をシミュレーションしてしっかりと利益が出るのかを検証する必要があります。ターゲット(T)を変えると仕入れ値も売上の立て方もガラッと変わるので、事業の展開の仕方もまったく違うものになります。TPSを何パターンも考えて、どれが一番事業の成長につながるかを検討することが大切です」

TPSを洗練させるためのポイントとして、淺場さんは「顧客提供価値」を挙げます。

「サービスを提供するときに、『こういう強みがあるサービスなので使ってください』という切り口ではなく、『皆さんにとってこんなメリットがあって、このサービスを使うとこんなふうになります』と、いかに顧客目線でPRできるかが大切です。この顧客提供価値を考えながらTPSを洗い直すと、より研ぎ澄まされたTPSになっていきます」

講義は、続けてビジネスモデル化の話題へ。マネタイズはもちろん、マーケティング費・顧客獲得コスト・オペレーションのシステム開発費など、初期費用やランニングコストを見落としなく見積もることの重要さなどをわかりやすく解説していただきました。

本番リリース前に絶対やるべき!3つのポイント

講義は実践編へ。戦略を検討していざ市場に投入するとなった際、これだけは絶対にやっておかなければならないというポイントを3つに絞っていただきました。

1. 市場、競合の分析
「まずは市場全体を把握する必要があります。例えば中途採用向けの求人広告事業をやろうとする場合、同じ中途採用求人広告の競合だけ調べていてもダメ。人事がどこにお金をかけていて、どんなものと比較をしているのかなど、お客さんの立場に立って考えていくんです。そうすると、人材派遣、求人広告、リファラルなど、いろいろな方法が見えてきて、その後の事業拡大の際の戦略も同時に考えられて一石二鳥。また、自分たちの事業が成功した場合、大手が同じ事業を真似して始める可能性も忘れずに。競合になりうる大手を調べて、どうやったら真似されても勝てるかを事前に考えておく必要があります」

2. 自社の勝ち方を考える
「どうやったら勝てるか、自社の勝ち方を考えましょう。先ほどのオンライン書店を例に挙げると、リリース当初の敵は、リアル書店と中古本ショップ。その2つに勝ったとしても、今度は書籍以外も扱う大手ECショップが立ちはだかる。続いて消費者自身が中古品をフリマサイトで販売できる仕組みが登場する。さらには本の要約アプリまで……と、次から次へとライバルが現れるわけです。ここから先どんな時代になっていくか、どんな敵が出てくるかというのを想像しながら、勝ち方のパターンを大量に出してみるといいと思います」

3. 想定顧客のペイン(P)とソリューション(S)の検証(本当に買ってくれる顧客がいるか)
「先ほど皆さんにもTPSを書いていただきました。そこで、本当に買ってくれる人がいるのかを検証しましょう。私の事例をお話しすると、衣装レンタル会社を起業する際は、40日間連続でヒアリングを行いました。都内の20~30代の会社員の女性を人づてに40人紹介してもらい、毎日1人ずつ、ランチをご馳走するのでちょっと話を聞かせてもらえませんかとお願いしたんです。そのヒアリングを経て、この事業が成立するということが検証されたので、リリースに踏み切ったという経緯があります。BtoCの場合は、ターゲットになりうる3、40人にヒアリングができれば御の字だと思います。BtoBの場合はヒアリング対象者がなかなか見つからないケースも多いですが、少なくともターゲットになりうる3社は当たっていただいて、深いヒアリングができるといいかと思います」

3つ目の検証については、「筋の良い」仮説を立て、「最短ルート(最速)」で仮説を検証し、「ピボット」できる柔軟な思考と素早い行動力が必須といいます。

「仮説が間違っていた場合、そのうち大コケして借金だけ残ってしまう……なんてことも考えられます。そうならないために、TPSがフィットするまで、仮説と検証のサイクルをぐるぐる繰り返します。私の周りの成功している経営者や起業して上場している人たちは、これを本当に地でやっているんですよ」

淺場さんご自身の事例を含め、TPSの重要さをわかりやすく説いていただきました。検証の結果、仮説がズレていると感じたら柔軟にピボットし、また仮説を立てて検証を繰り返す。このサイクルを最速で回し、フィットした際にリリースに踏み切るといった手順が大切だということがわかりました。

ターゲットは限定的に絞り込むことが大切

講義のあとは、司会の三竹さんとのトークショー。
話題は、講義の肝でもあったTPSから始まりました。三竹さんからは、「TPSを考える際にやってはいけないことは?」という質問が。

「それはずばり、全部をターゲットにしようとすることですね。年齢問わずみんなが使えるサービスだから、女性はみんなターゲットと言ってしまうのは一番危険なパターン。なぜかというと、先ほどの衣装レンタルの話でいうと、女性全員をターゲットにしたらサイズからデザインまで膨大な衣装を用意しなければならなくなる。なので、ターゲットはもっとぎゅっと絞って具体的にする必要があります。どんなときにどんな理由でこのサービスを使うのか、と考えていくと、ターゲット像が明確になっていくのでおすすめです」

ターゲットはどうしても広く概念的になりがち。書き出すポイントはあるのでしょうか。

「私の場合は、ターゲット(T)がこの場合、ペイン(P)はこれでソリューション(S)はこう、とホワイトボードにバーっと並べて書きましたね。当時数えたら、100パターンくらいありました。そのなかで、これはニーズが確実にないだろうというものを消していき、残ったリストから優先順位を決めて、高いものから順番に検証していきました」

続いて、事業が拡大するにつれ、従業員との事業理解度に差が生じることに悩む経営者の話題へと移りました。

「事業理解度の差を埋めることについては、私もチャレンジしているところです。そこで、これ1枚あればリードを取ってこられるというような、必要なワードやアクセス先がしっかり載っているチラシを作って、そのチラシの説明の仕方を教えています。事業全体の話をするのではなく、そのチラシの説明の仕方を話しているうちに、相手も『これって何でしたっけ』と聞いてきてくれて、どんどん理解が深まっていくというサイクルがあって。自分以外の人にお願いするときは、何か形になるものを作って説明してあげるだけで解決することもあると思っています」

事業全体の話として説明するのではなく、お客さんへの営業に使用する資料を元に会話することで、自然と理解が深まっていくという淺場さんのメソッド。ぜひ参考にしてみてくださいね。

時代やニーズに合わせて柔軟にピボットを

質疑応答ではピボットの事例を教えてもらいたいという声が挙がりました。

「衣装レンタルの会社は2009年に設立したのですが、現在のターゲットは当初とは変わっていて、結果的に最初に仕入れたものはほぼなくなっています。事業成長に伴ってターゲットが変化し、提供するサービスがどんどん変わったんです。時代に合わせてニーズが変わり、顧客も変わった瞬間に、サービスを提供する側も変わらなくてはいけない。競合が出てきた瞬間に、戦い方を変えなければいけない。それがポイントです」

時代やニーズに合わせ、柔軟にピボットすることの大切さ。同時にピボットするためにはTPSの検証サイクルが必須、ということを改めて知る回答でした。

会場とオンラインの2軸で行われたセミナー。会場では講師と参加者を交えたネットワーキングが行われ、今回のセミナーも盛況のうちに幕を閉じました。

淺場 理早子
株式会社アドタグ
代表取締役

新卒で新規事業の法人営業を経験したのち、横浜ゴムグループにて新規事業立ち上げに携わる。​
2005年、ミクシィ入社、創業事業である求人プラットフォーム事業部長に就任しIPOを経験。
2009年。パーティードレスのシェアリング事業会社を起業。
2017年、新規事業開発研修や、新規事業に必要な”手を動かせる伴走支援”を行う目的で、株式会社アドタグを設立。「理論」と「実践」のバランスを重視した事業推進サポートを行う。​ 2021年4月、ベネッセの動画教育サイト「Udemy」にて、事業の立ち上げ方講座『起業家のリアルな経験から学ぶ! 新規事業担当者のための「はじめてのビジネスプランニング」』をリリース​

三竹 麻子
一般社団法人WE association 理事​
株式会社A&CO代表取締役社長

KDDI、マイクロソフト、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て独立、株式会社A&COを創業。
社会人大学院の女性キャリア支援からスタートし、キャリアコーチサービス「Good Coach」を運営。企業の女性管理職育成や男性管理職のマインドセットにコーチングで成果をあげてきた。
2023年業界専門紙数社と一般社団法人WE associationを設立、DE&Iに関する企業支援の幅を広げている。

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