セミナー
日時 | 2024年1月24日(水)13:30〜15:30 |
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講師 | ポジウィル株式会社 代表取締役 金井 芽衣 |
進行 | 一般社団法人WE association 理事 株式会社A&CO 代表取締役社長 三竹 麻子 |
「TOKYO女性経営者塾 by N E W」テーマ型セミナー、2023年度3回目のテーマは「未来を共に築く、優れた人材獲得の採用戦略とは」です。キャリアに特化したパーソナル・トレーニング「POSIWILL CAREER(ポジウィルキャリア)」を運営する、ポジウィル株式会社 代表取締役 金井芽衣さんに、人材採用のコツや事業拡大に向けた課題解決などについてお話しいただきました。
元々は保育士になりたいと思い短大に通っていた金井さん。現状を見ていくうちに「親世代の課題感は子ども世代に直結すると感じる機会が多く、そこを解決できるような人になりたい」と思い、キャリアカウンセリング学部に編入したといいます。
卒業後は、リクルートエージェント(当時)で人材紹介の営業職を経て独立し、2017年に会社を設立。
「最初は一人でやっていこうと思って起業したので、社員を増やしたりある程度リスクをとったりということは考えていませんでした。会社をつくって最初にリリースしたのは、匿名で単発のキャリア相談ができる『そうだんドットミー』というサービスでした。当時は、個人が自分の悩み……いわゆる“無形のもの”に対してお金を払うというのは、なかなか難しいという見方もありました。でも事業を続けていくうちに、こちらがきちんと価値をお返しできるのであれば、お金を支払ってくださる方もいらっしゃると確信しました」
『そうだんドットミー』は大手メディアなどにも取り上げられ、注目度も向上。しかし、本格的なWebサイトが完成したタイミングで、なんと金井さんは『そうだんドットミー』のサービス終了を宣言しました。
「それまでは自分でLP(ランディングページ)を作ってフォームで予約をとっていましたが、ユーザーさんもかなり増えたため、本格的なWebサイトをエンジニアさんとデザイナーさんにお願いしていたんです。ただ、それが完成する数ヶ月前から今の『POSIWILL CAREER』のようなモデル検証も並行していました。当時は社員が3、4人という状況。複数の事業を行うのは難しいと思ったんです」
どちらかしかできないとなったとき、金井さんは『そうだんドットミー』の終了を決断。
「私は、お客さまにとって価値があるなら事業の形が変わっても構わないと思っています。事業としてこれが大事だとこだわってやるのはとても重要ですが、結局評価をするのはユーザー。使われなかったり伸びなかったりするものに社長が固執していると、そのまま潰れてしまうことが多いと思います。私としては、『そうだんドットミー』より『POSIWILL CAREER』事業が伸びると考えたので、意思決定をして今に至っています。やはり選択して集中していかないと伸びないと思っていたので、周囲からもったいないといわれても後悔はなかったですね」
進行の三竹さんから、「収益的にどうなるかわからない段階でその決断を後押ししたものはなんだったのか」という質問が挙がりました。金井さんは、迷わず「自分の実体験をもとに確信した」からと答えます。
「自分が売って実績を出してきたからこそ、これが事業化したら伸びるという確信がありました。今でこそカウンセリングやコーチングは当たり前という時代になっていますが、周囲は誰も賛成しなかったです。投資家さんからも、絶対伸びないでしょと。それでも、自分自身が確信を持てているということが、私は一番大事だと思っています。実体験をもとに確信を持ったものって、結構うまくいったりするものですよね」
そんな状況でも投資家さんは、「事業の形は変わっても、金井芽衣だったら諦めずにやりきりそうだから」という理由で投資してくださったとのこと。
机上の空論ではなく、自分自身の実体験をもとに得た確信と、それを実行に移す金井さんの決断力と情熱が伝わるエピソードでした。
現在は社員70名弱、業務委託などを含めると100人を超える規模のポジウィル株式会社。
立ち上げ当初は、「人間なら誰でもありがたい」というほど、採用に苦戦していたといいます。
「会社は一人で立ち上げ、前職の同期と一緒に7人で始めました。でもファイナンスをするというタイミングで、そんなリスクをとりたくないと離れていった方もいて、うまくやることができなくて。社長自身が、どこに向かうか・どういうふうにやるかを決めていない状態で人を採用するのは難しいですよね。なので、来てくれるなら誰でもありがたいという思いでSNSで募集をかけていたんです。でも、なかなかうまくいかず1年半くらい本当に悩んでいました」
紆余曲折を経て、金井さんがたどり着いた採用のポイントは「SNS」「MVV・制度設計」「アンラーン」の3つ。
「実は『そうだんドットミー』の前にもキャリア相談の事業をやっていたんです。でも、使ってくれたのはリクルート時代の後輩一人だけでした。そのとき同期に『社長の知名度がないから伸びるわけがない』と言われて、たしかにそうだなと。X(旧:Twitter)のフォロワー数も当時200人ほどだったので、半年以内に1万人にしようと決めて動き出し、それから徐々に事業が伸びていきました。SNSを活用することで大手メディアに取り上げていただく機会も増えますしね」
採用する際の軸になるのは、「MVV・制度設計」。
「MVVも制度設計もないなかで走っていたということもあり、いざそれを決めていく段階で合わないと感じた人がどんどん辞めてしまうタイミングがあったんです。会社が何を軸にして頑張るのかが決まっていないと、有象無象に人材を採ってしまうので、採用の基準としてもMVVは重要です」
そして最後は「アンラーン」。
「先程も申し上げたとおり、うちに来てくれるなら誰でもいいというスタンスから始まっているので、当時はうちで活躍するか・マッチするかということよりも、例えば大手からの人だから優秀なはずだというだけで採用していた部分もあり、結果的にメンバーに大変な思いをさせてしまったこともあります。『アンラーン』というのはそこに繋がるんですが、大手で役職者だったからスタートアップでもうまくいくかというと、それはまったく違う話。過去の成功体験に関係なく、自分自身が新しい環境でイチから頑張ろうと思える人じゃないと難しいと実感しました」
ここで三竹さんから、「自分の右腕的な存在はどう採用するのか」という質問が。
「投資家さんに、社長に合わせてチームをつくったほうがいいと言われたんです。私は得手不得手がかなり偏っていて、まんべんなくできるというタイプではない。だからこそ、社長の不得手を補えるような人たちを採用しないといけない。そこを明確にしてから、できないことができる人を採れるようになりました」
また、人事評価についても、MVVやアンラーンがポイントになっているという金井さん。
「バリュー体現が土台にあったうえで行動ができているかどうか。人として、ビジネスパーソンとして素直に話を聞いてアンラーンできるかどうか。そういうスタンスを大事にしています。なので、どんなに結果が出ていても、スキルがあっても、そういうスタンスがない人は評価しないと決めてから会社としても変わった気がします」
会社のMVVに共感し、イチから学び直す姿勢を採用の軸にすることで、なかなか人材に恵まれないという課題解決の糸口が見い出せそうです。
時に参加者の反応を伺ったり、時に挙手を求めたり、そんな金井さんの気さくなお人柄もあり、セミナーはリラックスしつつも笑いあり情熱ありの活気ある雰囲気で進行します。
質疑応答のパートでは、参加者の方から積極的に質問が挙がりました。
テーマでもある採用について悩んでいる方には、金井さんから「まずはちょっと手伝ってくれないってバイトをお願いしてみるといい」というアドバイスが。
「業務委託やバイトでちょっとお願いして、仕事を手伝ってもらう。一緒に仕事をしていると、そのうちなんとなく会社に愛着が湧いてくるんですよね。一度愛着を持ってもらえれば、その後すんなり入社してもらえることも多いです。最初から入社してと言ってもなかなか来てくれないけれど、ちょっと手伝ってくれませんかという話をしたら来てくれる」
実際に、金井さんの会社でもそういった経緯で入社してくださった方がいるのだとか。たしかに、一度お手伝いをしてもらって会社に愛着を持ってもらうのはひとつの手といえますね。
また、2部門の事業を抱えるNPO法人の経営について悩んでいる方に対しては、コーチングのプロならではの話の引き出し方で、課題解決のヒントを提示する一幕も。
「一度紙に書き出してみるといいです。少人数で2つの部門を回すためにどちらもできる人が欲しいところですが、そういう人はいない前提で考えたほうがいい気がします。なので、今いるメンバーは何ができるか、助成金はどのくらいか、黒字が出ている部門でどれだけ食いつないでいけるのかなど、全部書き出してみる。それ1本でやっていけるかシミュレーションをして、人がどのぐらい必要で、顧客がどのぐらい必要かなどを書いてみて、それに合わせていったほうがいいと思います。今お話を聞く限りだと課題がぐちゃぐちゃになっている気がするので、人の話、お金の話、あとは事業の話、と全部時系列で整理するとすっきりして気持ちが楽になると思いますよ」
紙に書き出して課題を整理し、シミュレーションしてみるという方法は、シンプルながらさまざまな場面で応用できそうです。
最後は、恒例となった参加者を交えたネットワーキングです。
今回は、中国、台湾、ベトナムなど、アジアに関わりのある方が多く、話が大いに盛り上がり、アジア圏の女性経営者のビジネスに対する情熱や行動力に改めて驚かされました。
時間に制限があるなか、一人ずつ今年の目標を宣言。講師である金井さんの目標は、「会社のフェーズが上がってきているため、盤石な経営チームをつくりきる」だそう。
「周りの先輩に言われたのは、『下からやると大変』ということ。どういうことかというと、希望年収が比較的低めで採用しやすいメンバーレイヤーから採っていくと、指示を出したことしか動いてくれないことがたくさんあるんですよ。組織が大きくなるにつれ、ピープルマネジメントができる人がいないと厳しいよとずっと言われていて、実はちょうど今その問題に直面しているんです。リーダーシップだけで引っ張っていける時期もありますが、100人を超えてくるとやはり上から組織をつくっていかないと難しいと痛感しています」
全員の宣言が終わっても、まだまだみなさん話し足りない様子。盛況のうちに第3回のテーマ型セミナーは幕を閉じました。
1990年生まれ。短大で保育士・幼稚園教諭の免許取得後、キャリアカウンセリングに出会い、2010年に法政大学キャリアデザイン学部に編入学。
卒業後はリクルートエージェント(当時)にて人材紹介の法人営業として勤務した後、2017年に国家資格キャリアコンサルタントに登録。同年ポジウィルを設立し、代表取締役に就任。
現在までに総額約3億円の資金調達を実施しつつ、キャリアに特化したパーソナル・トレーニング「POSIWILL CAREER(ポジウィルキャリア)」を運営。2万人を超える相談者が訪れるサービスに成長させてきた。
またその他にもキャリア支援者育成プラットフォーム「ポジウィル認定講座」や法人向けキャリア研修事業「人的資本CX」などを立ち上げ、キャリア支援を文化にするべく活動を続けている。
KDDI、マイクロソフト、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て独立、株式会社A&COを創業。
社会人大学院の女性キャリア支援からスタートし、キャリアコーチサービス「Good Coach」を運営。企業の女性管理職育成や男性管理職のマインドセットにコーチングで成果をあげてきた。
2023年業界専門紙数社と一般社団法人WE associationを設立、DE&Iに関する企業支援の幅を広げている。