セミナー
日時 | 2021年8月25日(水)15:00-17:00 |
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講師 | 特定非営利活動法人キッズドア 理事長 渡辺 由美子 |
進行 | 株式会社イー・ウーマン 代表取締役社長 株式会社ユニカルインターナショナル 代表取締役社長 佐々木 かをり |
女性経営者のスキルアップやネットワークづくりを応援する「TOKYO女性経営者塾 by N E W」。今回の講師は、NPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さんです。子どもたちを取り巻く課題を解決する事業として、どのようなビジョンを抱き、活動し、成長してきたのか、具体的な戦略をお話いただきます。
配偶者の転勤に伴って1年間イギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験。日本における課題に目を向け、2007年に任意団体キッズドアを立ち上げたのが、渡辺さんの社会貢献事業のスタートでした。
「『子どもの貧困』について、厚労省が初めて調査結果を公表したのは2009年です。私たちは、それよりも一足早くスタートしています」
2009年には、国の認証を受けて特定非営利活動法人に。「7人に1人が貧困」という、日本の子どもたちの厳しい現実と向き合っていきます。親の収入が少ないことで十分な教育が受けられず、進学・就職で不利になり、収入の高い仕事に就けない。そして、次の世代も同じ状況となる『貧困の連鎖』。これを断ち切ろうと設立されたキッズドアのビジョンは、「すべての子どもが夢や希望を持てる社会の実現」です。
「目の前の子どもたちを救うだけでなく、そういう社会をつくる、ということを目指します。NPO法人だけで変化を起こすことは難しいので、企業や行政などの力を結びつけるプラットフォームとなること、子どもたちの大変な状況を社会に知ってもらうことにも力を入れています」
キッズドアでは、大学生や社会人、シニアのボランティアによる学習支援を行っています。そのスタイルのひとつは、「居場所型学習支援」です。
「物件を借り上げることで、毎日でも気軽に来られる施設にしました。家でごはんが用意されていない、お母さんが帰ってこないといった子どもたちのために、食事の提供などの生活支援も行っています」
このような活動のなかで、子どもやその家族が費用を負担することは一切ありません。すべて、行政からの委託金や企業からの寄付、助成金などで運営されています。そこには、国としても推し進めている「子どもの貧困を解決することは、福祉ではなく投資」という視点があります。
「子どもにはもちろん、社会にとっても大きなメリットがあるということです。貧困を放置すると、低所得層が増えて財政収入が減ったり、社会不安が増したりします。一方で、学習支援を受けて進学し、正社員として働いた場合は、納税ができます。1人の貧困を救うことで1億円以上の効果があるという、日本財団の調査もあります」
ある外資系企業は、「日本の格差が放置されることは、社会不安につながる。将来の脅威になる」との考えで、教育支援を申し出たといいます。
セミナーの後半は、イー・ウーマン 代表取締役社長の佐々木かをりさんが進行を務め、さらに詳しいお話を伺っていきます。佐々木さんは、35年前の創業時にNPO法人をつくることを考えていたのですが、当時の日本にはNPO法人の概念がなく、企業の理解を得られなかったという経験があるそうです。
「NPO法ができたのは、20年ほど前ですね。それから今に至るまで、女性がNPO法人を立ち上げるときの傾向として、ボランティアだけで解決しようとすることが挙げられると思います。しかし実際は、それだけで社会インパクトは起こせないですよね。現在は6億円を超える寄付や事業収益を計上しているキッズドアさんですが、どのような戦略があったのでしょうか?」
佐々木さんの問いかけに、渡辺さんは「私は最初から、人財を雇って事業を進めていくことが重要だと思っていました」と答えます。
「お金をかけずにやろうとすると、続かないんです。だから、企業に寄付していただくとか、国に働きかけて事業をつくってもらうことなどをしていく必要があります。今、子どもたちを教えてくれているのはボランティアですが、その人たちをまとめたり、どんな成果を上げているかを調査する人には賃金を払っています。いい仕事をするためには、それなりのお金を動かすことも考えないと難しいかなと思いますね」
この後も、経理の体制などについてもお話いただきました。
さらに、参加者から意見や質問を募っていきます。
設立して4年目というNPO法人の方からは、「数字の話が大変参考になりました。収益を上げていくために、今はどんなことをすればいいでしょう?」という質問が。渡辺さんからは、「スタート時期は、民間の助成金が受けやすいとき。まずは1件、そこからステップアップ」など、具体的な回答をいただきました。
さらに、「コロナ禍における新たな活動の展開」「企業の寄付をどのように集めたらよいか」など、NPO法人を経営する方を中心にさまざまな質問が飛び交い、議論が深まっていきました。
最後に渡辺さんが、女性経営者に向けてエールを送ります。
「貧困が社会不安の一番の原因という国際社会の考えに、日本もだんだん目を向けてきていると思います。しかし、子どもや教育について、主力世代の男性はなかなか舵を切れない。女性がいかに頑張るかが重要です」
佐々木さんも「今日は、経営のことだけでなく、私たちの社会的マインドも高める時間になりました。私たちがきちんと自分事としてとらえていきたいと思います」と締めくくり、セミナーが終了しました。
千葉大学卒。大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。 配偶者の転勤に伴い一年間イギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。2007年任意団体キッズドアを立ち上げ、2009年内閣府の認証を受けて特定非営利活動法人キッズドアを設立。日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、活動を広げている。2016年第4回日経ソーシャルイニシアティブ大賞国内部門ファイナリストに選ばれる。2018年5月、初めての著書『子どもの貧困~未来へつなぐためにできること~』(水曜社)を上梓。内閣府 子供の貧困対策に関する有識者会議 構成員。厚生労働省社会保障審議会・生活困窮者自立支援及び生活保護部会委員。一般社団法人全国子どもの貧困・教育支援団体協議会副代表理事。
ダイバーシティの第一人者。1996年から日本最大級のダイバーシティ会議「国際女性ビジネス会議」を企画・プロデュース、2000年から「イー・ウーマン」サイトを中心にダイバーシティ関連のコンサルティングおよび研修・講演。組織の多様性と成長性を分析する「ダイバーシティインデックス」を開発。また、内閣府男女共同参画会議、厚生労働省をはじめ多くの政府審議会等の委員を務める。世界銀行「女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)」日本代表。日本代表としてAPEC、OECD等国内外での講演も通算1,600回以上。これまで東京大学、上智大学など複数の大学、高校等で教鞭を執る。また、「アクションプランナー」と佐々木メソッドによる時間管理術は日本の時間管理・手帳ブームをつくり毎月の講座も「人生が楽しくなる」と人気。テレビ朝日「ニュースステーション」レポーター、TBS「CBSドキュメント」アンカーなど歴任。現在もテレビ、雑誌、新聞等のコメンテーターを務める。2009年ベストマザー賞受賞。2021年「ブルガリ アウローラ アワード2020」受賞。神奈川県横浜市生まれ。上智大学外国語学部比較文化学科卒業。米国ニューヨーク州エルマイラ大学に留学。2008年名誉文学博士号授与。2児の母。